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*終幕/微笑
幸福だから微笑むのではない。むしろ微笑むから幸福なのだと言いたい。(アラン『幸福論』より)
由美という人物は、千代にとってはものすごくリアリティのあるキャラクターでした。その終幕の是非は此処では論じませんが、幸せの形は人によってそれぞれだという事、そしてその幸せの定義は自己の主観的な決定に拠るのであり、(究極的には)他者の理解が及ぶものではないという普遍性をあのシーンで見たように思います。
でも、感情移入すればするほど、そして私自身が歳を重ねれば重ねるほど、あの最後の微笑みは切ない・・・。
(2008/7/10 Up)
*爪紅
つまくれない、は鳳仙花と同義です。昔の人は、この花で爪を染めたとのこと。
詩音さまより頂きましたキリ番7777リクエスト"先妻の幻影に憂う藤田夫妻"。言わずもがな、ですが史実や背後関係は千代の妄想ですので・・・。やそさんとの出会いはこんなではなかったかな、と思ってます。斎藤は惚れた女以外は嫁にはしないと思う・・・やそとは衝撃的な恋、時尾とはじわじわ深まる絆と愛、そんな感じです。
拙宅の時尾は"出来た妻"である以前に、強い情念を秘めた女であって欲しいなあと思っています。やそさんのことも気になっても、斎藤が話すまできっと聞かなかったんじゃないかと。でもその想いは身の奥でそっと、でも熱く燃やしている。それが、時々何かがきっかけで迸る・・・。逆に千代のやそさん(先妻)は、政治的なことや思惑を何もかも解って斎藤と一緒になった・・・恋をしたのならいいな、と。とても達観している大人の女性。自らの命の限りを悟っているからこそ、本当に大事なこと・・・愛しいとか、美しいとか、そういったものを大事にする女性ならいいな、と妄想してます。この2人の女性は全く違うタイプでも、根底に流れるメンタリティーは近しい。同じ花でも違う色のような、そんなイメージです。
素敵な御題を頂き、有難うございました。
(2008/7/26 Up)
*彷徨
勝者と敗者を分ける境界は、生者と死者を分ける境界ほどは強くない。だからこそ、この二人の孤独は似ているのではと妄想しています。この孤独からは逃げられないし、また互いを逃げさせない。ある意味、運命共同体のような関係、でも刃は互いの喉元に向いている。そんな感じです。相手に厳しく現実を突きつけること、過去や犠牲から目をそむけさせないこと、現実に真摯に目をむけさせること。それもまた、優しさの一つだと・・・そんな優しさを持った人間はいろんな意味で鋭く気高いと思っています。
(2008/8/22 Up)
*師父と撫子
しえ様に頂きましたキリ番10000リクエスト"高荷恵/大人でクール"へのSS。しえ様とメールをさせていただく中で、"会津の御典医の娘"としての恵を、斎藤はどんな目で見ていただろう、というお言葉があり、それを元に作成しました。よって、恵がメインと言うよりは、高荷親子が主体になってしまいました・・・。
斎藤はあまり感傷的にはならないタイプだと思うのですが、人の言動は(表現しなくても)ちゃんと受け止めている、黙って解ってやる類の人間だと千代は妄想しています。戦火の中、父の様な父性をもって接してくれていた人物の娘と、後日、自分がその人物に近しい年齢になったときに遭遇してどのように感じるかに焦点を置きました。ただ、言葉は伝える人間と受け取る人間の相互理解があってこそ初めて伝わるものだと。それが無い場合、"言わない"という選択肢の効用を理解している大人と、おそらく誰よりも早く、後日それを理解するだろう大人一歩手前の存在:恵。そんなイメージです。いつか、伝わる日がくるかもしれない。そんな余韻が残ればな、と。
素敵な御題を頂き、有難うございました。
(2008/9/21 Up)
*師父と撫子/邂逅
前作:師父と撫子の後日譚。この2本で一つのストーリです。前作は京都編、今回は縁編を背景にしています。
伝えたいことがあっても、誰もが全てを言葉に出来るわけではなく、逆に言葉数が少なければ少ないほど、伝わる何かもあると思います。"言わない"という事、また、言えなかった事をあえて"言う"という事、どちらもその結論に至るまでの情動が、聞く人の心を動かすのではないか、と。大人になるというのは、そういう相手の心の機微を、静かに感じることなのかもしれない。
恵は、孤独の何たるかを知る故に優しく、そういった表層に現れない情への感受性の高い、かと言ってそれをあからさまに表には出さない女性になればいいなあと妄想しています。
(2008/10/1 Up)
*接近戦
拙宅比・MAXの甘いお話です。新婚当初、位を念頭にお読みくだされば・・・。ネタ的にはかなり古いのですが、急に甘々なお話を書きたいと思って書いたSSので、千代としては異色なタイプのお話。もう貴方達ずーっとそうやってなさい、みたいな・・・。そんな感じです。
でも、あの時代を考えると、この二人はかなり適齢期を過ぎてからの結婚だったと思うのですが、若かろうが歳をとっていようが、それなりにこういった攻防はあるもんだと思ってます。逆に、歳をとってからの方が、安易に物事が進まないあたり、激しい戦いになるのでは、と。
恋愛、こと夫婦になってからの恋愛は、まどろっこしい方がスパイスが効いていていいのかもなんて思う今日この頃です。
(2008/10/14 Up)
*焔
まず、書いた本人としては、これは愛の話ではなく・・・性の話なのです。
これは本当に個人の趣向と言うか、恥ずかしい限りなのですが、共に物を食す、というのはある意味SEXよりも性を感じる瞬間ではなかろうか、と。年齢を重ねるに付け、そう思うわけです(笑)。そして、互いに性を感じる瞬間というのは、計算ずくのストーリの終点にやってくるのではなく、突然、それまで点だった現象が雪崩が起こるような勢いで線になり、脈絡無くやってくるのだと。
歪んだ大人の、歪んだ思考なのかもしれませんが、今回は拙宅比MAXの大人のお話でした。万人受けするお話では無いかもしれませんね。でも共感くださる方が、千人に一人でも居てくだされば、千代はかなり満足です。
(2008/11/8 Up)
*寿ぎ
2009年の一本目。元旦は、警部補のお誕生日です。
世間の行事より、やっぱり大切な人の誕生日の方が大事だと。そして、その人が存在するというだけで幸せな気持ちになれてしまう。時尾さんは、そういったことを、気負わずさらっと言ってくれそう。そして、聞いてる本人の息を止めてしまったり。
久々に登場の張君は、相変わらず口が災いの元のようで。それでも、彼は(斎藤のそういう姿を見て)そのポジションを楽しんでいそう。そんな感じがでてれば、と思います。
(2009/1/4 Up)
*蛍火
"小娘三部作"のその後。よって、拙作"行く人"→"涙の代償"→"確信犯"の続きです。Memo内で試験的SSとして2008/6/8にUpしていたものを再録しました。
ベースは操→御頭、御頭と恵は過去がらみで微妙、というまあ、絵に描いたような三角関係。蒼紫は、思われることよりも、思うことを尊重しそうな印象を持っていますが、さてどうでしょう。
続きを書きたいなあ、と時々思うので、思い切って本宅にもって来ました。
(2008/6/8 Memo内にてUp→2009/1/21 本宅にて再録)
*心模様、雪
今日という今は、それまでの過去の蓄積が映す鏡のようなもの。人間関係もそれに似ている。
共に在るという根本的な幸福感というのは、なんでもない一瞬のその静けさの中で、かみ締めるように存在するのではないかと。ちなみに、このSSは微妙に拙作:文字の無い文とつながってます。
目に見える形での幸福を追求しがちな昨今。掴むとか、勝ち取るではない、"感じる"という幸せの形を書けたらな、なんてね。やまない雪を見ながら、そんなふうに思ってます。
(2009/2/22)
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